環境対応低硫黄ディーゼル燃料添加剤

氏名(本籍・生年月日)  吉田 總一郎  (東京都 昭和201112)
学位の種類  博 士 (学術)
学位記番号 甲  37号
学位授与の日付 平成 16年 9月 30日
学位授与の要件 信州大学学位規程 第5条第1項該当
学位論文題目 バイオディーゼルの合成と利用に関する研究

  主として石油資源を使用することによる大量生産・大量廃棄型産業は,20世紀の我々の生活文化の基盤を形成することとなり,「豊かさ」への大きな錯覚は,我々に反省と新たな行動規範及び様式を求めている。

 本論文でとり上げた地域の廃食用油のリサイクルによる循環型社会創り,環境調和型産業創りは今世紀の地域社会創り及び地域産業創りにひとつの方向性を示唆するものである。

 以上述べた事柄を背景に,本研究の目的を以下の1)3とした。

1)バイオディーゼルの潤滑特性を明らかにする。

ここでは特に,軽油および灯油にバイオディーゼルを添加したときの潤滑特性を調べ,バイオディーゼルの潤滑性向上剤としての有効性を明らかにする。

2)油脂とメタノールからのバイオディーゼルとグリセリンを合成する固体触媒を探索する。更にこれらの生成物の収率と選択率に及ぼす反応条件の影響を調べる。

ここでは固体塩基触媒に注目し,均一系触媒に替わる不均一系触媒を調製し,その触媒としての特性を明らかにする。

3)ディーゼルエンジンの燃料と潤滑剤としてのバイオディーゼルの実用性を調べる。

ここではバイオディーゼルのディーゼルエンジン燃料と潤滑剤として,実用性を目指して,主に経済学や環境学の視点からその可能性を更に掘り下げる。

章緒言では,バイオディーゼルの燃料としての特性やその製造法についてこれまでの研究について述べることによって,本研究の目的を述べた。

章で,バイオディーゼルの燃料としての利用(バイオディーゼル100%),  軽・灯油混和剤としての利用, 軽・灯油潤滑性向上剤としての利用を述べ,量的制約の観点からはできるだけ付加価値のより高い商品化(潤滑性向上剤)を目指すべきであることを指摘した。特に,バイオディーゼルの潤滑効果から,低硫黄軽油・灯油への潤滑性向上剤(添加剤)としての有効性を論じた。

章で,これまでのバイオディーゼルの製法上の欠点であった製造工程からの排出物処理問題と,生成物と触媒との分離の問題を指摘した。これらの問題を同時に解決するため,固体塩基触媒による,バイオディーゼルとグリセリンの合成技術の利点を活かし,実用化プラントにつなげてゆくことの有用性を述べた。従来の製法では,目的生成物を製造プロセスの最終段階で分離する工程で,塩基を除去するため,水洗いして中和する必要がある。この工程で有害な副生成物(廃棄物)が大量に発生し,また,グリセリンの回収が困難になる。今日の規制の下では,廃棄物の処理費用がバイオディーゼルの価値を上まわる可能性もある。今後のバイオディーゼル製造においては,不均一系の塩基触媒プロセスによるクリーン技術を採用する時期に来ている。すなわち,不均一系触媒の利点を有効に使うことである。生成物(バイオディーゼル)の分離が容易であり,触媒が再使用可能であること,担体と活性相との境界で反応物の活性化と入れ換わりが起きるという二つの機能を合せもつことと,連続して製造できるという工程上の利点を活用できるためである。加えて,バイオディーゼルのより信頼できる実用をめざして,バイオディーゼル製品の規格化については,品質確保法遵守の立場から,日本の製品標準を早く確立すべき時期にきていることを述べた。

また,第章では,現在の低硫黄軽油化環境において,広く用いられている潤滑性試験のひとつ, HFRR試験の満足値について論じた。潤滑性能の確保・様々な気象条件・脱硫の過酷度などを勘案した時,主として噴射装置の安全性が危惧されていることを考慮し,現在の基準460 μmの引き下げ(摩耗痕径合格値を小さく)の必要性と, HFRR試験をサポートする,実車試験データに基く新しいテスト方法・基準の設定を提案とした。そして,今後,発生する環境基準遵守のための軽油低硫黄化によるコストアップの社会的費用の上昇と地方自治体の対応の在りm保法遵守の立場から,日本の製品標準を早く確立すべき時期にきていることを述べた。

また,第本論文でとり上げた「地域の廃棄物ではなく,資源としての廃食用油」を,付加価値を高めながら,地域でフルに使い切ることは資源の環境性能をモニを考慮し,現在の基準460 μmの引き下げ(摩耗痕径合格値を小さく)の必要性と, 生産と開発の論理に代って,地域で消費されるモノと廃棄物の物質循環を社会構造化するという新たな地域(社会)成長の論理が, 地域の発展の活力の中心となる。商品のトータルなライフサイクルの過程の中から,これまで未利用でしかも新たな付加価値を生む物質の循環可能性を見直してみる必要がある。食用油の使用後のライフサイクルから生まれる新しい財としての価値を見出し,それを有効に利用することは地域に新しい価値を生む。つまり,地域の資源を有効に活用する商品 ─地域として主張のある商品─ を使用する時代に変わりつつあることは確かである。

本研究の成果から,バイオディーゼルの利用の可能性とその新たな社会的意義を見出した。今後,更に工学的に製造プロセスのイノベイションを推進し,地域の新たな経済価値創造産業の構築をめざすこととしたい。